スライド1  やごろう苑が主催する研修ツアーに参加してきた。やごろう苑は鹿児島県の大隅町にある老人健康保健施設である。質の高いでケアを実施していると聞いたので行ってみたのだ。研修ツアーの内容は施設長による講演と施設見学、それに職員による介護劇という構成になっている。福祉関係者から一般の人まで幅広くカバーした内容である。
 今回のスライドは現地でデジカメで撮影したものとやごろう苑のパンフレットからスキャナーで取りこんだもので構成した。
 喜樂苑というのは兵庫県尼崎市にある特別養護老人ホームである。他の立派なハードを備えた施設とは違い、もう耐用年数が来ているような建物の中で行われている質の高いケアが有名である。NHKで放映された「おでかけでっか」は殊に有名。

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やごろう苑の全体図である。母体となっている昭南病院の隣にある。開設は平成3年9月、通所定員75名。

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関連施設は昭南病院(昭和23年設立154床、外来350名)のほか無医地区に建てられた北地域診療所、総合在宅ケアセンター、グループホーム「おじゃったもんせ」などがある。場所がわからず、朝早く通っていた看護ステーションの車を止めると「それは私のところです」と言ってやさしく教えてくれた。右側はやごろう苑の正面。

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運動場から見たやごろう苑。現在は住民の協力で桜基金を設けて桜が満開となり、住民の憩いの場になっている。他に子供用の遊具、サッカーゴールなども備えており、高齢者施設として孤立しないように取り組まれている。

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 研修ツアーに行くと田中施設長のお話しを聞くことになる。総論、各論、哲学まで学ぶことになる。
 老人保健施設であるからには中間施設が建前だ。しかし、やごろう苑は終末施設と考えているという。一生入所できるのかというとそうではなく、一生お世話をするという意味だ。そのため在宅機能が7割を占めるという。デイケアのバスが13台、職員30名で定員75名の在宅お年寄りをお世話している。
 夜間は巡回型で在宅ケアを提供し、重い障害を持った独居老人でも地域で生活が可能となっている。鍵は夜間のヘルパーで、それが実現できるとかなり在宅ケアで看ていくことができる。
 家族がいる場合はケア計画のコピーを渡して、情報開示と自由な了解を基軸にして十分な理解を得ている。
 通常POS(Problem Oriented System)でケアにあたることが多いがやごろう苑はGOS(Goodness Oriented System)を使用している。対象者の生活や人生上の良い所(たとえば、三味線ができるとか、昔の活動や体験・趣味)を伸ばし,強化するということだ。人間というものはだめな所をあげつらうよりいい所を誉められたほうがずっといいようだ。

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 入居者にとっては施設設備の充実よりも行き届いたケアと,すぐに来てくれて笑顔で介助してくれるやさしいヘルパーがいる方が良い。その点,やごろう苑はサービス提供者側の論理や都合より生活者のニーズを中心に据えている。
 どう違うか。こんな例があげられた。病院での事です。看護婦が患者に検査室の前で説明しています。「検査がありますからここで少しお待ち下さい」しばらく待ってます。患者はトイレに行きたくなりました。『行っていいのかなあ。遅いなあ。』生活者ニーズを優先するということは例えば『ここで15分ほどお待ち下さい』とか『トイレに行かれてもいいですよ』と言ってあげる事という。
 「呆けてまでは生きたくない」、「あそこの孫は嫁にもらわんほうがいい」と言われるように呆けに対して地域の受容はまだ形成されていない。家族の呆けに対するケアは全て間違っていると考えて良い。やごろう苑では浜松医療センターの金子先生影響を受けて,積極的に痴呆を治している。と言っても中等度の痴呆の人までだが,右脳刺激を重要視している。痴呆の判定スケールを利用し、痴呆年齢を出してその対策を実施している。小呆け(6〜8才児程度)では無表情、ぼんやりしているとか、中呆け(5才児程度の軽症痴呆)では日時がわからない、身だしなみに無頓着、物盗られ妄想、薬の管理ができないだ。大呆けでは同居の家族の名前が言えず、入浴をいやがり、ADL面での介助が必要となる。痴呆で無い人にも,痴呆にならないために趣味の充実や勝負事の実施がとても効果があるようだ。中等度の痴呆以上の人にはグループホーム「おじゃったもんせ」がある(後述)。
 
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 最近はどこの施設でも地域との結びつきを深めるために様々な試みをしている。やごろう苑では高齢者を施設で孤立させないために積極的な取り組みがなされている。誰でも利用できるレストラン(もちろん赤字)。そこには高千穂牧場のソフトクリームがあり、子供達に人気だ(ミルクが濃い,ただし高千穂牧場に行って現地のものと食べ比べてみると現地の方がさらに濃かった)。住民から桜募金を募り,運動場周辺は季節には桜が満開となり,多くの人で賑わう。また,地域の祭りではカラオケ大会の会場となり,1000人以上の住民が集まってくる。
 ボランティアの受け入れも積極的だ。他の施設でよくあるパターンが「ボランティアに来たんですが,私は何をしましょうか?」「いいえ,私は聞いてません。」と答えるのに対して,やごろう苑では各職員が親切に応対する。ボランティア希望者に対しても気持ちよくボランティアができるように雑用だけでなく意義のある活動が用意され,工夫されている。
 職員の研修はもっとも大切な事の一つだ。初期研修はもちろんのこと,数々の勉強会ややごろう学会とよぶべき研究発表の場が用意されている。福祉関連学会での演題発表も最も多い施設という。
 苑外の人達の出入りも多く今回参加した研修セミナーもその一つである。

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 田中施設長の講演の中でのキーワードをあげてみた。
 何にも支援(せん)センターとは,在宅介護支援センターを言う。本来、在宅生活を支援する目的の支援センターがほとんど地域に出ず、出るときは自分ところの本体(特養や老健)への利用手続きしかしないような支援センターを言う。今後,介護保険が実施されると様々な手続きは支援センターのケアマネジャーが代行するようになり,ケア計画を立てるのもケアマネージャがするようになる。そうすると人によってサービスの内容,質が変わる。良いケアマネージャーに当たると質の高い在宅生活ができ,悪いのに当たると悲惨。
 生活者ニーズ。対立する言葉はサービス提供者の論理。日課というものは集団を管理しやすくするためのサービス提供者の論理であり,生活者のものではない。よく入所者が「ここは自由がある」と言う時,他の施設では当たり前となっている様々な規則がとても少ないという事を意味する。生きてる普通の人達が普通に生活する事を支援するのが施設職員だ。
 よく言われる「何か事故が起こったらどうするのか」という問いに対しては,法の範囲で管理者が責任をとるとはっきり言っている。そのため,お墓参りや買い物にもヘルパーは利用者について行ける。管理者の態度がはっきりしているとそこで働くものは気持ちよくお年寄りに対してしたい事ができる。
 虐待は放置責任。虐待は乏しいサービスの時に起こることが通常である。
 問題行動があるときには問題ケアがある。大便にまつわる問題行動に対しても田中施設長は問題ケアがなくなれば,そんな行為はなくなると自信を持っていた。痴呆老人の家族のケアは100%間違いケアという。当人にストレスを与えてさらに痴呆を悪化させる。徘徊にもここがどこかわからんないという不安があり,それに「出ていったらダメ」と怒ると,そのつきつけられた感情だけが心を痛めつけて痴呆を悪化させる。最近は,日本でも各施設に痴呆ケアの認識,重要性が広まってきた。家族や国民レベルにはまだ程遠いが。とりわけ家族は正常を基準にして物を考えてしまう。骨折している人に歩け,心臓の悪い子供に走れ,と言うようなもので,痴呆になった親にそうでない時代の動作や生活能力を求めるのはきつい。
 
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 玄関前のベンチ。こんなのがあると北欧を思い出す。よくここに座って日向ぼっこをしながらタバコをふかしたものだ。
 入ってすぐのレストラン。電動であちこち自由に動き回る入所者。黒砂糖を売店で買っていた。鹿児島ではお茶菓子によく使うそうだ。表情は明るく堂々としている。見学者の鉄則としてインタビュー。やごろう苑は居心地が良いか?自由が利くなあ、タバコも酒も自由じゃし、ヘルパーさんもみんな良い。という返事。
 レストランで介助する職員。隣に座って楽しく介助している。どちらも表情が良い。今日は見学者がいるから?と疑うほど。

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 廊下で座ってくつろぐためのいす。このごろはどこの施設でも増えてきたようだ。ベッドのある居室と食堂だけというのは芸が無いから当然でしょう。
 ヘルパーたちの顔写真が掲示板に張ってある。あなたの介助に誰を選びますか?というような自由選択は無いが分かりやすい。北欧の精神病院では自由選択性だったな。

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 中庭。無駄なようだが、採光のためや空間の広がりを持つために絶対必要な気がする。ちょっと腰を下ろして集まれる場はあればあるほど良いね。
 痴呆の人でも分かり易いようにトイレの掲示。部屋の掲示。

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4人部屋のベッド、テーブル、整理ダンス。右下は個室。日本では広め。しかし、一部屋しかない。個室が1床しかないという意味ではない。私が入所する個室なら2部屋は欲しいなあと思った。

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 敷居の無い詰所。ここまでオープンなのは初めて見た。マスコット犬,右下では堂々と寝そべっている。北欧ではどこでもいたなあ。左下はリハビリテーション室に面した保育所。職員の子供を預ける事が出来る。乳児も看ていた。まさに子供とお年寄りが同居。

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 浴室。全ては見ることが出来なかったが随所に工夫がされている。通常,使っていくうちに不具合があり後から手を加える事はよくあるが、ここはほぼ設計通りで使用に耐えているようだ。更衣室が広く,くつろげる畳がある。用途は様々である。下の写真は料理教室や陶芸教室。料理教室は今後男性に人気が出てくるようだ(北欧ではパソコンと並ぶ大人気)。薩摩の焼き物の上薬から醸し出される色は独特で,奇抜な感じがした。

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 やごろう苑の目玉である温室。立派なもので広い。果樹が中心で,リハビリでは動かさない手もトマトをもぐ時には肩が挙上するというから不思議。ほんとかな?全くの不採算部門。心のリハビリと位置付けている。

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 痴呆老人用のグループホーム「おじゃったもんせ」。その意味は聞き忘れたので薩摩弁だろうが意味の解かる人は知らせて下さい。民家を借入,手を加えたものだ。玄関にはそれぞれ入居者の表札がかかっている。もちろんスロープもつけられている。

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 ダイニングキッチンやリビング。さて,ここで質問。痴呆老人は何処に居るのが多いか?キッチンテーブル?ソファ?座卓?こたえは座卓は使わないとの事。何十年も畳生活をしてきた人が椅子生活に適応しちゃうんですね。和室がありますがここはレクか洗濯物たたみ,もちろん隣で広げてくれる人がいるようですが。寝室としては使わないようです。現地を見て長年の疑問が解けました。日本でグループホームを作る時生活の場としては畳はいらないようです。個室機能は不十分なので(民家改造型のため)洗面は共同です。

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 個室。この部屋はトイレがありましたが,刑務所パターンでした。いくら個室でも囲いがいるでしょう。民家利用ではこの点が難しい。写真や整理ダンス,全て持ち込み可です。当たり前ですが。でもここの入居者は別に自宅があります。誰も住んでいなかったり,家族が住んでいたり。

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 二人部屋。まだまだ,日本では完全個室には程遠い。それでも適応できるのが我慢強い今の高齢者。僕らの時代なら無理ネ。

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 尼崎の喜楽苑。ここは見に行くところではない。施設設備は老朽化しており,見学したとしてもまず参考にならない。
 ここはケアの本質を感じに行くところだ。だから単なる施設設備見学となっている現状の研修ではなんの意味もない。実際,そんな研修はほとんど意味がないけどね。だからしばらく泊まり込んで,実際のケアに触れよう。
 見学に行っての見学者と職員の会話。「こんなに自由では痴呆の人は出ていきますねえ。」「はい。」「痴呆の人はどのようにして監視するんですか?」「監視???」全く感覚が違っていたのでとても滑稽だった。
 次に喜楽苑の概要について。特徴は労働運動がらみである事。したがって少し論理的で人権感覚が強い。それと大阪の特徴というか人間味が濃い。以上は私の偏見。次ページから同行した松前町社会福祉協議会の菊地由美子さんと村上利通さんの報告を参考にさせていただいて述べたい。
 
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 兵庫県尼崎市の特徴は斜陽化する阪神工業地帯の真中に位置し,高度経済成長期に急激に人口を増やした町だ。大量の安い労働力を求めた結果、集団就職でやってきた鹿児島(尼崎人口の20%)・沖縄・四国・山陰出身者が多い。一時は55万都市になったが現在は大企業の移転のため、48万人となっている。生粋の尼崎っ子は数%に過ぎない。
 そのため住宅事情は極めて悪く、アパ−トや文化住宅がひしめいている。ここに郷里の親を呼び寄せるパターンが多く(子供の方は新築家屋に)、多くの文化的広がりを持った反面、阪神大震災では安普請の住宅のために多くの高齢者の命が奪われたようだ。その上、公害訴訟で表現されているように生活環境も健康にとっては最悪である。大手企業は播磨地区などに移転し、高齢者が残るために、尼崎市の高齢化率は16%と高い。喜楽苑の周辺地区(工業地帯周辺)はなんと21%に達する。老夫婦や独居高齢者がとても多い地区である。集団就職者も高齢化が進んできており、農村出身者の高齢化と工場労働者の高齢化が同居するような状況となっている。

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 喜楽苑は労働者が作った。母体は全日自労。日雇い労働者の労働組合である。そのため、第一に人間の尊厳が掲げられている。
 特養は50床。ほとんど女性。デイサービス・訪問入浴は重度の方を中心に引き受けている。(重度の方ほど、本当に介護を必要としている。)訪問入浴〜月90件 1日平均5件 常勤3名で行っている。
 入居者が主人公でなくてはならない。施設では、通常職員が主人公になりがちで、職員の仕事にあわせて入居者を動かすことが多い(収容型)。それを全く逆にしてあるのが最も重要な点である。具体的なポイントを挙げる。言葉遣いで命令語・指示型は使わない。(〜してください・〜しなさい・〜してあげる・赤ちゃん言葉)など目上の方には絶対使ってはいけない。依頼形で話すこと。すると、YES・NOの自己決定を入居者の方が出来、自然と主人公になれる。目線は威圧感を与えないように水平か下。名前はその方の人格を表しているので必ず名前でお呼びする。食事介助は隣に座って介助する。立ったままだと犬に餌を与えるような感じなる。1対多だと1人に30分はかかり、後の方はご飯が冷めてしまうので、『喜楽苑』では一対一でおこなっている。(当然職員は不足するので、ボランテイア・実習生の有効利用と、食事介助だけのパート雇っている。)入居者の部屋へ入るときは必ず失礼しますという。入浴・排泄介助は同姓介助で行う。オムツ交換時は、全然関係のない事をどんどん話しかけながら行う。(無言でオムツ交換されるととても恥ずかしい。汚れているなんて言うのは論外)入浴・排泄介助は相手の方に恥ずかしい思いをさせないよう常に気を配る。

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 流石に労組が作ったものという感じ。組織形態がはっきりしている。
ケアの質を高めるというか、人間が当たり前に生活していただくための体制と、自治会という注文をつけられるところがしっかりしている。たとえば「最近はコールを押してもヘルパーがすぐ来ない。」というクレームがダイレクトに挙がってくる。家族との懇談会も居室ごとに実施され、常時家族の意見、要望を把握し、問題の解決や要望の実現に努力しているようだ。
 また、喜楽苑地域福祉事業推進協議会という組織があり、法人理事会、職員をはじめ、施設周辺地域の老人クラブ、生活協同組合等で構成する協議会(15団体、構成員15,000名)だ。主に喜楽苑が目的通りに運営できているかのお目付け役を担っている。
 そして地域の協力無しではやっていけない状況だ。医療機関、学校、商店などの協力は欠かせない。交番もよくお世話になって顔なじみだ。
 ボランティア、実習生の受け入れも積極的で、実習生の受け入れ延べ1,200名(98年度実績)、ボランティア延べ1,500名(98年度実績)、実習生、ボランティアの協力がなければ喜楽苑の運営は成り立っていかない。

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 ここがすごい所である。ユーザーの立場からすると生活者として当然のことだが、一般のサービス提供者からはとっても抵抗のあることだ。
 持ちこみは何でもOK。地域社会で生活している人達と同じような生活をしてもらえるよう、職員全員で保証するためだ。外食もOK。外食は職員2名がつきそう(車椅子での移動のため)。一緒に食べないと相手が気を使うので職員も一緒に食べるようにしている。当初は苑で食費負担をしていたが、職員の飲食費は家族会で負担するようになった。つまり家族からも支持されている。タバコ、お酒は飲みたいときに飲んでもらう(すべて自己管理だが、一部火だけは職員管理の人がいる)。ふるさと訪問は入居者の生まれ故郷を共に訪問し、その方のひととなりの生き方をより深く知り尊敬が深まる。職員の費用は1人分は入居者負担、もう1人分は施設負担。
 食事に一番気を遣っている。さすが食い道楽。調理師は国の基準4人のところを6人配置。食事の時、栄養士と調理員が食堂へ行き、材料・味付け方法・献立を説明し、食事している人の表情、歯や口腔の状態、摂取量をチェックし統計を取るようにしている。食欲をそそるために食堂で鉄板焼きを実施したり、寿司屋さんに来てもらい目の前で握ってもらう等。また、歯茎でつぶせる食材を使ったり、ミキサー食では、例えば肉じゃがなら、肉じゃが全部をミキサーにかけるのではなく、イモはイモ、肉は肉という風に別々にミキサーにかけ、彩りなどに配慮している。その結果、生きる力が増し、勇気が沸いてくるようだ。

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 人間らしい生活をお年寄りに送ってもらうために最も重要なことは職員教育だ。全員参加義務(超勤待遇)の全職員会を月1回実施している。自発的に意見を出してもらい、職員一人一人に自覚を持ってもらうのが目的だ。ここのケアを考えるためには月に2回の会議がある。どうすればお年寄りに豊かな生活を送っていただけるかを常に考える姿勢がすばらしい。
 職員の待遇は特にいいわけではない。週37時間労働。平均超勤時間が月10時間。50名の入居者に職員21名、日勤8,9名、夜勤3名だ。新卒者の手取り16〜17万円。職員の意見はどんどん取り上げられる。上意下達方式は無い。
 
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 しっかりとした表札。この木の感覚で無いといけないね。下はショートステイの人用で木の上に紙で貼ってある。生活感が漂う個人スペース。4人部屋の入り口はカーテンだけ。廊下にはあふれ出た整理ダンス。建替えしかないね。旧い基準に沿って造られた喜楽苑だから個人の生活レベルとは程遠く、かつてはただ寝たきり老人を収容し,生かせておくのに必要な最低限の基準しかなかったということを物語る感じがした。

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 廊下にあるテーブルスペースで歓談する入居者。たくましい人達。我々の事を監査にきた県職員と勘違いしていた。インタビューでは,自由が利き,便利である事をあげていた。全室個室の特養(生野町喜楽苑)もあるけど,ここの方が狭いけど便利だからかわりたくないとの事だった。職員食堂。ほんとに建物・設備は貧相な感じがするでしょう。掲示板。本職の寿司屋(家族会関係)がやってくる。養殖もんは使わないからメッチャ高くつくと。その分入居者は50人で120人前を食べてくれるって。すぐ近くの商店街にお買い物。自分で見て,選んで,試着して,あれこれ。

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 良くない介護の見本。どこがダメか?エサやりパターンと見下し視線だね。どこの施設かは秘密。たぶん日本のどっか。
 喜楽苑での話。まだ3ヶ月の新米ヘルパーがある年寄りに怒られた。「○○さん、〜して下さい。」「なんでおまえが決めないかん!」それほどまでにお年寄りの尊厳が高められている。職員とお年寄りの上下関係は日々の小さな介護の中でどんどん浸透し、お年寄りが萎縮し、諦めが進む。そうして心の中の自分と今の自分の位置とのギャップは時に爆発する。いわゆる問題行動となって表現されることもある。それが問題行動は問題ケアがあるからという意味だ。

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 まとめ。やごろう苑は施設設備も立派で配慮も行き届いています。喜楽苑の施設はぼろぼろですがソフトがとってもいいところです。北欧も含めハードがいい所に行ってきて,次はぼろぼろ(喜楽苑さんごめんなさい)の施設に行って,今回初めて気付いたことがあります。
 ちょっと見の研修は無意味!
今まで立派なハード面に心が奪われてしまっていたので気がつきませんでした。
 現場従事者が身に付けるべきものは物の見方の核心や,対応のハウツーでしょう。それがちょっとやそっとの研修では得られるはずがない。しばらく滞在して身体で覚えないと意味がありません。最低2週間,事情が許すなら2ヶ月以上。日本の施設の改善の一番の早道は現場の主任クラスを旅に出すことだと思いました。
 ご存知のように日本の施設でもきわめて質の高い介護をやっているところはたくさんあります。そこに修行に出すことですね。金があればスウェーデンに行けばいいけど。それが出来ない施設長はくびにしないといけないですね。(ちょっと過激かな)
 交換研修制度をdutyにすればいいと思いました。質の高いところの職員は大概質の低いところを知りませんから,それはそれで意味があると思います。
 ちょっと見の研修は無意味と書きましたが,ある程度分かっている人にはソフトが優れている施設は分かります。だってお年寄りの表情が違うし,生活者としての存在感が違うもの。あるいはひどいところしか知らない人にとっては目のうろこをはぐ程度には役立つかもしれませんが。
 もう一つ気がついたこと,老健にしても特養にしても高齢者にある程度満足していただけるサービスは現行の制度で可能であることです。そこで思ったこと。ひどいところほど金がないと言いまくってることです。実際は引当金に廻してる!「当たり前のことをどうして当たり前に出来るのか,よそは皆、金儲けしているのにどうして?」って,いつも聞くようにしています。その結果、それぞれの施設にきちんとした哲学があるんですよねー。それが今の所マイナーなのがとっても残念です。少なくとも我々が年を取ったときは徹底的に文句を言いまくるぐらいしかできないのでしょうか?